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2026.06.10東京大阪
授業/特別講師/講演会
レコールバンタン グランパティシエ専攻1年次の実践授業として、神奈川県小田原市にある「一夜城 ヨロイヅカファーム」を訪問しました。


授業は、イチゴ農園訪問、鎧塚俊彦シェフによる特別講義、農園見学、質疑応答、店舗見学、と盛りだくさんの内容で実施されました。当日の様子をレポートします。

【1. シェフが大切にする「第一次産業と地方の活性化」】
2010年にオープンした一夜城 ヨロイヅカファームは、今年で16年目を迎えます。また、店名の文字は、画家・書家である片岡鶴太郎氏が開店祝いに書き寄贈してくれたデザインです。開設当初の農地の状態と、場所を選んだ経緯について語りました。
鎧塚シェフ「景色が良くって、スタッフたちが働きやすい環境、そしてお店をやりたかったので、そういった土地をずっと探していました。この場所が見つかったときに、『絶対ここだ』と思ってやりました。当時はもう全部荒れ地で、地元の農家さんたちと協力して開拓したので、すごく思い出深いです」
農業に取り組む根本的な動機として、「第一次産業と地方の活性化」を若い頃から人生の夢のひとつに掲げていると述べました。

鎧塚シェフ「みんな、お米や、魚がなかったら生きていけないよね。だから第一次産業というのはものすごく大切な分野、国の根幹となる産業です。AIやITも大事ですし、いまは、魚群探知機や自動潅水システムのように農業・漁業にもIT技術が取り入れられています。
でも、やっぱり僕はその作り手の人たちを大事にしなきゃいけないという思いをずっと持っています。今は小麦粉など輸入に頼っています。国際紛争などがあると、輸入できなくなり食料が確保できなくなります」
第一次産業の重要性、食材を輸入に依存するリスクについて言及したほか、ファーム開設にあたって農地法上の困難があったことも説明しました。自治体との連携と、そこに至るまでの発信力の重要性についても語りました。
鎧塚シェフ「僕が『農業をやりたい』って言っていろんな自治体に声をかけたら、小田原市の方々が手を挙げてくださいました。私がここで農業と店舗を経営することが、地元の人たちにとってもメリットになると思ってくださったんです。ここはもともと農地だったので、農業以外の事業をすることができませんでした。でも、ちゃんとした理由があり手続きを踏めばいいのではないか?と思い、『やっぱり大変でも自分でやろう』と思ったのが16年前です。そのために、まずは『発信力』を持つことが大切だと考えていました。とにかくいろんなメディアに出させていただいて、知名度を上げていきました。僕は決して有名になりたかったのではありません。ようやく一夜城 ヨロイヅカファームができたときに、同業者の人たちも『あ、そういうことだったのか』と徐々に分かっていただけるようになりました」


鎧塚シェフは、農園では季節ごとに異なる植物が開花することを説明しました。
「バレンタインが終わる頃は、河津桜が咲いています。それからソメイヨシノ、枝垂れ桜、最後は八重桜が咲きます。僕は、菜の花が大好きです。桜は1週間で散ってしまいますが、菜の花は2ヶ月ぐらいずっと咲いてくれます。菜の花が終わったら今度はヒマワリの種を植えています。高いヒマワリって終盤になると全部ガクっと首が折れるので、それを見ると悲しくなるんだよね。でも今は背の低い可愛い種類があります」と解説。
農地面積は約1,000坪で、現在は外部スタッフにも管理を依頼し、「一夜城 ヨロイヅカファーム」スタッフがお手伝いする体制で運営しています。農園内ではシイタケの原木栽培も実施しているなど、植物・生物たちの多様性も特長です。
鎧塚シェフ「うちは全部『無農薬』で育てています。これは実はすごく大変なことで。ブルーベリーも、無農薬で育てているので毛虫がつくんですよね。その毛虫はどうするかというと、ピンセットで一匹一匹とっています。自分たちで育てると原価が安くなる、と思うかもしれないけれど、実はこれぐらいの規模ですと、余計コストが高くなっています。むしろ買った方が安い。ただし、自らの手で素材を育てることには、経済面以外のプラスの面があるんじゃないかなという風に思っています」
農園内で、シェフが「なぜ、馬の柵の周囲にのみユリが咲くと思いますか?」とメンバーに問いかける場面がありました。
鎧塚シェフ「ユリって球根だよね。ユリ根はイノシシの好物なんですよ。だからユリ根を全部イノシシが掘り返して食べちゃうんです。でも馬や牛のモニュメントには、イノシシは怖くて近寄らない。だから馬と牛のモニュメントの周りだけユリ根が残って、結果ユリが咲きます。俺も最初は分からなくて、なんでここだけ咲くのかな?と思っていたんだよね」

鎧塚シェフは、エクアドルに9,000坪のカカオ農園を所有しており、現地で発酵・乾燥させたカカオ豆を「一夜城 ヨロイヅカファーム」に送り、農園内施設で処理を行っていることも説明しました。
鎧塚シェフ「ここの畑が大体1000坪なんだけど、エクアドルにはカカオ農園が9000坪あります。発酵・乾燥させたものをここに送ってきて、全部処理をしています。16年前は、世界で初めての『畑から直送されたショコラ(ファーム・トゥ・ショコラ)』でした」
農園内には川島なお美さんの「遺愛碑」も設置されています。碑文と蝶々の彫刻が彫られていて、碑の穴から望む方向に毎年元旦の初日の出が上がります。
鎧塚シェフ「最初は数人だったのが、今では元旦になると車で300台近く来られるので、500人ぐらい来てくださっているんじゃないかな。ここを始めてから16年、1回も元旦に雨が降ったことがありません」

――なぜ農園には、カエルやゾウの置き物があるのですか?
鎧塚シェフ「妻と行ったバリ島で買ってきました。カエルはものすごく縁起がいい。ゾウも、カメもね、その縁起がいいと言われるものをいっぱい買って、コンテナに詰め込んでもらって送ってもらったんです」

――店名の由来は?
鎧塚シェフ「『一夜城』って名前がついているのは日本に3箇所ぐらいあるんだけど、その1箇所がここです。この下に小田原城があり、難攻不落の城でした。秀吉がほぼ天下を統一して、最後に小田原の北条が降伏しないということで、ここにお城を作ったんです。北条は籠城して、海も陸も全部封鎖していました。お城が出来上がったと同時に、夜に下の方の木を全部切り、北条が朝起きたら、山のてっぺんに真っ白な城がドーンと立っていた。それで、北条は降伏した、と言われています。実際は一晩でできたわけでもなくて、3ヶ月か4ヶ月くらいと言われています」
「一夜城 ヨロイヅカファーム」建設時に、「こんな高台に重機は上がれない」と言われた際、「『秀吉はここに何百年も前にお城作ったんですから、できるんじゃないですか?』と説明し、納得してくださいました」と語りました。
――僕たちのように知名度のない人がお店を出すときには、「ひと癖」をつけた方がよいのでしょうか。
鎧塚シェフ「それも一つ。誰もやってないことをやるっていうのもありです。だけど、僕はやっぱり『美味しいもの』を作り続けるっていうことが大事だと思います。弟子たちには『ひねりすぎるな』と伝えています。スイーツ好きのマニアみたいな人から賞賛されることも悪いことじゃないけれど、一般的には、シンプルなシュークリームやショートケーキ、プリンが『美味しいよね』って思ってもらえることが多いです。シンプルなおいしさを表現できることは、やはり強いと思っています」
最後に、在校生メンバーへメッセージを送りました。
鎧塚シェフ「僕は、みんなにも『スケールの大きなケーキ屋さん』になってほしいと思っています。ジョン・レノンが歌うことだけでなく、世界平和を訴え続けたように、表現者というものは、そういったいろんなことを通じてそれが作品に反映されていきます。だから僕らのお菓子も、いろんなことに注目してやっていくことは、決して無駄ではないと思っています」




千葉蓮生さん「一夜城に来る前に、イチゴ農園実習にも行きました。3種類のイチゴを食べ比べ、品種ごとの違いだけでなく、手間と時間をかけて育てられていることも実感できました」
大月楓雅さん「空気がきれいで、農園全体を通じてシェフの姿勢を感じることができました。遺愛碑では、大切な方への想いを知ることもできました」

新井来実さん「鎧塚シェフの考え方とお人柄を尊敬します」
岡本歩果さん「イチゴの収穫体験は初めてで、通常の授業とは異なる学びがありました」
田中結菜さん「焼き菓子を中心に購入しました。農園の見学から購入まで、充実した授業でした!」
イチゴ農園、「一夜城 ヨロイヅカファーム」見学、鎧塚シェフの想いと、さまざまな視点を獲得した今回の課外授業。グランパティシエ専攻メンバーの、「菓子職人」としての視野を広げたようです。







